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相続手続きの期限

  • 文責:弁護士 石井浩一
  • 最終更新日:2025年11月11日

1 相続手続きの種類について

⑴ 遺産分割協議

相続人全員で、誰がどの相続財産を取得するかを決めます。

合意した内容は、実務上遺産分割協議書に記し、相続人全員が署名と押印をします。

押印には実印を用い、印鑑証明も添付します。

また、遺産分割協議をする前提として、相続人の調査と相続財産の調査を終えている必要があります。

⑵ 相続登記

相続財産の中に不動産が含まれている場合、法務局において、名義を被相続人から相続人に変更する手続きを行います。

⑶ 預貯金・有価証券の相続手続き

銀行や信用金庫、証券会社などで、被相続人の口座の解約・払い戻しや名義変更を行う手続きです。

⑷ 相続税申告

相続財産の評価額が一定の金額を超え、相続税の課税対象となる場合には、税務署へ申告するとともに、相続税の納付を行う必要があります。

⑸ 相続放棄

被相続人が債務超過(財産よりも借金などマイナスの負債が多い場合)などにおいて、⑴~⑷等は行わずに、一切の相続を放棄する手続きです。

2 相続手続きには期限が設けられているものがある

相続手続きには様々なものがあり、さらにそのなかにも、法律によって期限が設けられているものがあります。

期限を過ぎてしまうと、罰則が適用されるなどの不利益が発生します。

例えば、相続登記の期限を過ぎてしまうと、過料が科される可能性があります。

相続税を期限内に申告、納付できなかった場合、加算税や延滞税がかかることがあります。

また、相続放棄の期限を過ぎてしまうと、基本的には相続放棄をすることができなくなってしまいます。

事情によっては期限の延長が認められることもありますが、一般的には、かなり限定的なケースでないと、期限を延長することはできません。

したがいまして、相続が発生したら、できるだけ早く専門家へ相談することが大切です。

3 相続登記の期限について

相続登記とは、被相続人が所有していた不動産(土地や建物)の名義を、被相続人から、当該不動産を取得した相続人に移す手続きです。

令和6年4月1日からは、相続登記が義務化され、期限も定められています。

以前は相続登記をしなくても罰が科されることはありませんでしたが、相続登記がなされないままの不動産が増え、管理や売却が困難になる所有者不明土地・建物に関する問題が深刻化したため、法律改正によって義務化されました。

相続登記は、「自己のために相続の開始があったこと」かつ「当該所有権を取得したこと」を知った日から3年以内に、法定相続分での登記が必要となります。

そして法定相続分での登記をした後に遺産分割をした場合には、遺産分割の日から3年以内に相続登記が必要となります。

3年以内に遺産分割ができる場合には、遺産分割後に1回相続登記をすれば問題ありません。

遺産分割協議が長引いている場合、法定相続分での登記をする代わりに、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることもできます。

その後に遺産分割協議が完了したら、遺産分割の日から3年以内に相続登記が必要です。

正当な理由なく相続登記をしなかった場合には、10万円以下の過料に処するとされています。

相続登記の期限は長いように思えますが、遺産分割協議や必要書類の収集には時間がかかることもあるため、余裕を持った対応が必要です。

4 相続税申告の期限について

相続税申告と納付は、課税対象となる相続財産がある場合に必要です。

一般的には、相続財産の評価額(相続債務は控除)から基礎控除額を上回っている場合、相続税の申告と納付が必要となります。

配偶者控除や小規模宅地等の特例を適用することによって税額が0円になる場合であっても、相続税申告は必要です。

相続税の申告、納付の期限は、相続の開始を知った日(一般的には、被相続人がお亡くなりになった日)の翌日から10か月以内とされています。

期限を過ぎてしまった場合、延滞税と無申告加算税が課されることになります。

10か月という期間内には、相続人の確定、相続財産の調査・評価、遺産分割協議、申告書の作成、申告と納付までのすべてを行わなければなりません。

特に不動産や非上場株式など、評価が複雑な財産が含まれる場合には、申告書の作成に時間を要することも珍しくはありません。

さらに、現金や預貯金が少ない場合、納税資金を確保しなければなりません。

例えば、申告期限までに不動産を売却して、その売却金を相続人間で分配する必要がありますので注意が必要です。

5 相続放棄の期限について

相続放棄は、被相続人の財産や借金を一切相続しないための手続きです。

法的には、初めから相続人ではなかったことになるという効果があります。

被相続人が負っていた借金の方が財産よりも多い場合や、相続に関与したくない場合に用いられることがあります。

相続放棄の期限は、相続の開始を知った日から3か月以内という、とても短いものとなっています。

期限を過ぎてしまった場合、原則として相続を承認したとみなされるため、被相続人の債務の負担から免れることができなくなってしまいます。

相続放棄をするためには、相続放棄申述書の作成のほか、戸籍謄本類を収集する必要がありますので、できるだけ早く準備を開始することが望ましいといえます。

期限の起算点は、あくまでも相続の開始を「知った日」ですので、疎遠で音信不通となっていた被相続人が死亡したことを、被相続人死亡の日から1年程度経過してから知った場合には、その知った日から3か月以内に相続放棄をすれば基本的に問題ありません。

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